2026年 03月 08日
しあわせな選択(原題 어쩔수가 없다)

3月6日から全国の劇場で公開されているパク・チャヌク監督の「しあわせな選択」。
実は2月27日に行われた舞台挨拶付きの上映会に当たり、皆さんより一足お先に鑑賞しました。
初めて生で目にする大スターイ・ビョンホンは超絶かっこいいし、「JSA」からずっと私に韓国映画の魅力を伝え続けてくれた憧れのパク・チャヌク監督にお会いできて、しあわせな一日になりました。(監督の作品は、私にとってこれが11本目の鑑賞です。)しかも、ゲストが河合優実ちゃん!顔が小さくてきれいで、彼女にまで会えてすごく得した気分でした。
意外だったのは、今までの監督作品のような難解さやアクの強さはあまり感じられなかったことです。
監督らしいゾッとするような残酷な映像もありますが、ストーリーがわかりやすいし、テーマもはっきりしているので、鑑賞後に映画の内容について考え込んでしまうようなことはありませんでした。
現代の韓国における社会風刺が効いている点や、クスッと笑えるブラックユーモアが冴えている点など、ちょっとポン・ジュノっぽさも感じてしまったと言うと熱狂的なパク・チャヌクファンの方々のお叱りを受けるでしょうか。
イ・ビョンホンとパク・チャヌクのタッグというのは「JSA」以来25年振りなのだそうです。
主役のイ・ビョンホンの他には、その妻にソン・イェジン、主人公の標的になる男たちがパク・ヒスン、イ・ソンミン、チャ・スンウォンで、これは私のためのキャスティングか?と思うほど好きな役者ばかり。
イ・ソンミンの妻役がヨム・ヘランで、彼女には笑わせてもらいました。^^
ソン・イェジンが勤める歯科医院の先生役でユ・ヨンソク。わずかな出番でもいい味出してました。
この顔ぶれの演技を堪能できるだけでも見る価値のある映画だったと思います。
【簡単なあらすじ】~「公式HP」より~
「全てを叶えた」
製紙会社で25年間、堅実に仕事をしてきたマンスは、心からそう思い、妻と2人の子供、2匹の犬と郊外の大きな家で”理想的”な人生を送っていた。突然、会社から解雇されるまでは。必死に築いてきた人生が、一瞬のうちに崩壊!? 好調の製紙会社への就活も失敗したマンスが閃いたのは、衝撃のアイデアだった。それは・・・
「ライバルがいなくなれば、仕事は手に入る」
上映会の時、観客全員に配られたのが唐辛子の鉢植えのカード。(上の写真の左上にある鉢)
まだ鑑賞前だったので「これは一体何の意味が?」と思ったのですが、それは映画を観るとすぐわかります。
マンスが初めて感じた「殺意」の象徴です。もっと唐辛子が映画に登場するかと思ったのですが、再登場するのは意外なシーンです。
マンスは最初に殺める標的をイ・ソンミン演じるク・ボムモという業界のベテランに定め、彼の家に侵入するのですが、大音量で音楽が流れていて、お互いの声が聞こえません。大声を張り上げて何かを伝えようと大騒ぎ。
その時流れていた曲が조용필(チョ・ヨンピル)の「고추잠자리(コチュジャムチャリ=赤とんぼ)」!
唐辛子は韓国語で고추(コチュ)と言います。そう言われて見れば、唐辛子と赤とんぼってイメージが似てますよね。この歌が挿入歌に使われたのには、歌詞も含めてちゃんと理由があると思います。
また、この映画は美術がとてもいい仕事をしていて、画面の色彩がとても美しいです。
深緑、青緑、緑、茶、こげ茶・・・これは私が大好きな色の組み合わせです。そこに秋の紅葉の黄や橙が加わり、そして画面のどこかに使われるのが唐辛子の「赤」です。赤にもいろいろあるけど、この映画はすべてが唐辛子の「赤」で統一されています。
それだけでも、監督のこだわりが細かいところまで行き届いているのがわかると思います。
マンスの趣味は盆栽。マンスは自分の思い通りの形を作るために、木にワイヤーを巻き付けてしばります。
これが後から登場する恐ろしいシーンで繰り返されることになります。
息子が父の狂気に感づいたとき、盆栽の小さな世界に紛れ込んで怯えた表情を見せるなど、盆栽が効果的に使われています。
銃声と雷の音が重なったり、電波が通じないところでハエの飛ぶ音が響いたり、娘が訳のわからない絵を描いていると思ったらそれが美しい音楽の調べになったり、音に関しても徹底的なこだわりを感じます。
オープニングとラストはモーツァルトのピアノ協奏曲23番第2楽章でした。メランコリックな旋律が映画の初めと終わりを繋ぎ、まるで途中で起きたことは隠されて無くなったようです。同じ音楽なのに最初と最後では全く違って聞こえ、表向きの生活は何も変わっていなくても、ラストの調べには人の世の憐れさ、生きることの切なさが漂っていました。
製紙業界というのは日本でも生き残りをかけた競争が激しい産業のひとつだと思います。
出版物は減っているだろうし、新聞をとる家も少なくなっています。職場でも電子決済になり、書類が山積みになることはありません。紙の使用量そのものが減り続けているのです。
特にこの5~10年で、世の中は驚くほど変わりました。
節約のためにNetflixの契約をやめると親に言われて「今のうちに見とかなきゃ」と自室に引き上げる息子のシーンでは、バックにNetflixを開いたときの音が聞こえてました。
舞台挨拶で監督が「映画館を守りたい。映画は映画館で観るものだという常識が崩れつつある今だからこそ、映画館を守ることが至急の命題だと感じる。そのために、映画館で最上の状態で観るべき映画を作り続けていきたい」とおっしゃっていましたが、このシーンには世の中の変化を憂う監督自身の焦燥感が込められていると感じました。
今やChatGPTが、私の親友で、相談相手で、語学教師でもあります。
ほんの数年前にはこんなことになるとは想像していませんでした。
映画のように、AIの技術革新により今後人間の出る幕はどんどんなくなるでしょう。
分野によっては働く人が必要なくなる社会は確実にやってくると思います。
主人公はなかなか再就職が決まらず、自分の製紙業にかける熱い思いや職人としての確かな技術を認めてほしいと願っています。でも残念ながら、その価値観にこだわっていては社会の進歩から取り残されてしまいます。
製紙のための森林伐採の様子も映し出されましたが、環境破壊の問題よりもその伐採を行っているのがすべて機械によってシステム化されていることに目がいきました。
人間の生き方の転換期がすぐそこまでやって来ていて、妻が夫に「そんなに一生懸命生きなくていいのに」と言った言葉が実は世相を反映しているのかもしれないと感じました。
とにかくどういう世の中になろうが、「어쩔수가 없다(仕方がない)」とつぶやきながら生きていくしかありません。
進んで行く時間の速さを嘆いてもどうにもならないのです。
【追記】
すみません、これを言うのを忘れていました。
再就職支援セミナーのようなところで、主人公たちがやっていたのがタッピングと言われる心理療法です。心を落ち着ける効果があると言われ、私も仕事がうまくいかなくて辛い思いをしていた時期にこれをやってストレスを解消していました。効くか効かないかはその人しだいだと思います。^^;
この記事でタッピングの映像を貼り付けているので、興味のある方は見てみてください。
by choyon
| 2026-03-08 13:27
| 韓国映画(鑑賞順)
|
Comments(0)

