2026年 03月 07日
正義廻廊
映画の描写が過激すぎて中国大陸では上映許可が降りず、香港と海外のみの上映となったそうです。
香港電影金像奨では新人監督賞、編集賞受賞をはじめ、13部門でノミネートされたと評判になっていました。
最近「マッド・フェイト 狂運」という香港映画を観たのですが、それも殺人事件を扱っていて画面が血だらけ。
この「正義廻廊」という映画は、おぞましさがそれをはるかに超えていました。扱っている題材が、2013年に実際に香港で起きた「両親殺害バラバラ死体遺棄事件」。そこまで具体的に見せる必要があるのか?と思うほど映像がグロテスクでした。
ネタバレあり
映画は事件によって逮捕された、被害者たちの次男とその友達の陪審員裁判の様子を描いています。
次男が殺人事件の加害者であることは証拠もあり明らか、本人の自供もあります。
争点になるのは、その友達が共犯者と認定されるかどうかということです。
この友達は過去の自殺未遂の後遺症でIQが低く、言動にも問題があります。法廷での証言に関しては、実姉が弟を救いたい一心で無罪になるための発言を教え込んで言わせてるようです。
次男は「友達が母を、自分が父を殺害した」と証言します。そして両親の遺体解体のほとんどは友達がやったと。
でも、陪審員たちは彼の発言はウソだと疑います。
次男は両親を殺しておきながら、TVカメラの前で「父母が行方不明だ」と世間に訴えたことがあり、誰も彼を信用していません。
2人の被告に対してそれぞれに弁護士がつきます。
相手の量刑がどうなるかで自分の弁護する被告の量刑が変わる可能性もあるので、2人の弁護士は敵ではないけれど味方でもありません。
同じ事件の審理は関係者全員が同じ法廷に集まり、陪審員はそれぞれの被告に対する判決を下さなければなりません。
香港は現在も独立した司法権を持っているのですが、2020年に中国により「香港国家安全維持法」が制定され、この法律の解釈に関しては香港の司法・行政機関ではなく、中国政府に権限があります。香港の既存の法律との間に矛盾が生じた場合は、国家安全法が優先されることになっています。(今もリンゴ新聞の創業者の裁判が話題になっています)
少し脱線してしまいましたが、以上の経緯で香港では今もイギリス由来の陪審員制度(香港在住者から選ばれた通常7~9名の陪審員によって構成される)が適用されています。裁判官や弁護士などが裁判中にかつらを被っているのもイギリス法廷の流れなのでしょう。
この映画で登場する陪審員は9名で、立場も年齢も性別もバラバラ。
意見はなかなかまとまりません。(陪審員7名の場合2/5以上の多数決で判決を下すことができるそうです)
法の素人ばかりなので、まとまらなくて当然です。
自分に人を裁く資格があるのかと迷う者もいます。
それでも陪審員たちは、与えられた資料と証言から、まるでその殺人現場に居合わせたかのように頭の中で必死に想像をめぐらせます。
その陪審員の一人が言った言葉が衝撃的でした。
裁きの基準となったのは「フィーリング」だというのです。
知能に問題があると見なされた友達は、違法な取り調べにより自白を強要されていたことが発覚します。
また法廷では、友達の姉が迫真の演技(?)で陳述を行い、多くの陪審員のハートを掴みました。法廷は同情の涙に包まれ、判決はまさに「フィーリング」に流されてしまいます。
法廷にいる誰もが次男はサイコパスだと思っています。
喜びも悲しみも感じない男。両親を殺害して解体しても平気な男。
ところが、彼は幼少期からいじめられ劣等感が強く、両親は兄ばかりを贔屓して自分のことは失敗作だと思っていると信じていました。歪んだ自意識は、自分は独裁者ヒットラーだという妄想を生み出していました。
判決後はじめて両親が自分をどれほど気に掛けてくれていたかを知って、次男は後悔のあまり泣き崩れます。やっと本来の彼自身の姿が現れた瞬間でした。
事件を起こしたのには彼なりの理由があって、彼にも感情があったのです。
友達が共犯者であったのかどうか・・・それは誰にもわかりません。
彼の頭の中はクモの巣でいっぱいで、大きなクモが体を這っています。
クモの巣に張り巡らされた混沌とした世界、何かに縛られて身動きできない世界。
そんな世界にいる彼には自分が何をやったのか本当にわからないのかもしれません。
「俺は殺してない!」という叫びが法廷に響きます。
本人に記憶がないというのは、意図して嘘をつくよりももっとタチが悪いです。自覚がないのですから。
もしも次男が真実を語っていたとすれば、この男は…。
映画は正体の見極めが難しい2人の犯人像を描きながら、「正義とは?」と観客に問いかけてきます。
断片的な証拠をいくら繋げても、他者から見えるものは限られます。
不確かな真実を基に下される「フィーリング」による判決。
これのどこに「正義」があるのかとゾッとしました。
↓予告編
by choyon
| 2026-03-07 10:18
| 台湾・中国映画(鑑賞順)許光漢除く
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