2026年 02月 23日
愛と、利と

もう3年も前のドラマなのですが、監督が「ブラームスは好きですか」「ウンジュンとサンヨン」のチョ・ヨンミンなので、ぜひ観たいと思っていました。
これは観るのが大変なドラマです。1話が1時間10~30分もあって、それが16話。時間だけで単純換算すると120分の映画9.9本分です。
何か特別な事件が起こるわけでもなく、日常生活の中で交わされる会話が延々と続き、登場人物たちの心情が丁寧に描かれています。これを退屈と思う人もいるかもしれません。
私は女性主人公にまったく感情移入ができませんでした。共感できた方もいらっしゃるでしょうが、私には無理でした。独特の思考をする人で、自己評価は高いけれど自己肯定力が極端に低いタイプ。
私と同類だからこそ(「ひとつの机、ふたつの制服」参照)、彼女を必死に理解しようとしたのですが、それが叶わないほどに彼女の思考回路は複雑だったし、どうしてその場面でそんなことをするのか意味不明な部分もありました。
それじゃドラマの評価が低いのかと言ったら、とんでもありません。さすがチョ・ヨンミン!
セリフが心に残らずに頭の上を通り過ぎてしまうような最近のドラマとはまったく趣きが違います。
彼女に恋して、振り回されてしまう男性主人公ハ・サンスを演じるのがユ・ヨンソクで、何の出演作品を見ても心魅かれたことがなかった私が、このドラマでユ・ヨンソクに惚れました。笑
どんなひどい目に遭っても、やっぱり彼女のことが好きでたまらない。不器用で誠実、そして優しい。。。
この人物像はとても素敵でした。
そして、最終回のラスト15分は泣き疲れるほど泣きました。
この15分のために、ここまで乗り越えてきた感があって、このラストはずっと私の心に残り続けると思います。
ネタバレあり
まず、タイトルなのですが、原題は「사랑의 이해」。この「이해」は日本語にすると「理解」「利害」という2つの意味があります。「愛の理解」「愛の利害」どっちもありかな?と思いますが、邦題をわざわざ「愛と、利と」にしたということは「利害」と訳しているのでしょう。
舞台は大手銀行で、前半はまさに愛における利害関係を描いたシーンが多いです。
韓国では富と学歴は人を評価する上でとても重要になります。富裕層は絶対的な力を持っていて、「昔は身分で階級を決めたが、現代の階級はカネで決まる」という言葉が出てきました。
家が裕福な同僚は長年付き合ってきた彼女がいたのですが、彼女の実家へ行ったら「ぼっとん便所」だったとショックを受けていました。「経済的な格差は致命的だ」と彼女と別れ、両親が薦める見合いをして家柄の合う女性と結婚します。(⇒でも幸せにはなれない)
支店長は奥さんの実家がお金持ちでそのおかげで出世したと言われています。それとは逆に副支店長が出世できないのは奥さんが貧乏だからとまで噂されます。
主人公のアン・スヨンは、美人だけれど、高卒、出世が望めない窓口係、家が裕福じゃないと行員たちに線を引かれていて、スヨンがどれほど仕事ができて努力していても、線の外側にいる人間が中に入るのは至難の業だと感じています。そうやって出発点が違うと差別され、自分が軽く見られることにスヨンはストレスを溜めています。
入行して3年目のハ・サンスは幼い頃に父を亡くし、母が女手ひとつで苦労して育ててくれました。
落ちぶれたくなくて必死で勉強をして一流大学に入り、大手銀行に就職しました。
サンスは自分と同じように努力家であるスヨンが好きになります。
スヨンも自分に好意を持ってくれているようでした。とてもお似合いの二人だったのに、ちょっとしたボタンの掛け違いで周りの人を巻き込みながら二人の気持ちは簡単にはほどけないほど もつれてしまいます。。。。
アン・スヨンはどんなに努力しても報われない社会に対する不満の他に、家庭にも複雑な事情があり、最愛の弟を亡くして、他人から心を閉ざして生きてる人です。少し自暴自棄のところがあり、思考はネガティブで、嫌なことがあるとすぐにその場から逃げてしまいます。いつも人から憎まれたり嫉妬されると感じていて、人の輪の中に入れません。そういう頑なな生き方をしている彼女には共感できたのですが、残念なことに、彼女は自分が美人で男性からもてるということをわかっていて、人に対してちょっと上から目線で「フンッ」とするところがあるんです。これは女優の演技の癖なのかもしれませんが、目をクリクリさせて少し唇を開けた表情が私はどうしてもダメでした。彼女が同僚だったら、私は多分距離を置こうとすると思います。自分の気持ちを表に出さない人だから、余計に彼女が何を考えているのかを理解するのはとても難しいです。本人も「私は女性に好かれないので」と言っていましたね。^^;
亡くした弟の面影があったのか、アルバイトで銀行の警備職についている年下の男性の求愛を彼女は受け入れます。
警察になるのが夢で、働きながら勉強を続ける若者を支えたいと思うのです。
でも彼は採用試験になかなか受からず、家族の入院治療費を彼女から借金する状態になり、2人はお金に苦しめられます。
サンスの大学時代の後輩の女性が同じ銀行に異動してきて、彼女はサンスに夢中になります。
スヨンに振られたサンスは彼女の明るさに救われて、2人はつき合いだします。
ところが、彼女の実家は財閥で、彼女と結婚したら将来は安泰だと同僚に言われても、サンスは身分の違いに引け目を感じてしまうのです。
深く付き合うほど利害関係は生じて、損得勘定をすることも。
そういう価値観を持つ社会の中で生きているのだから、好きという感情だけでは済まない事情が彼らの周りにはあるのです。
でも、サンスとスヨンには似たところがあって、他の人と付き合っていてもどうしてもお互いが気になります。
どんなに否定しても隠しても、好きだという気持ちを消すことができません。
つらい時ほど平気な顏をする。どんなに面倒な仕事でも断らずに必死にやる。夢は平凡に暮らすこと。いつも努力していて肩に力が入ってる。
似ているからこそ、お互いを理解し合い、想いあって、受け入れようとするのに、二人が作った砂の城は波に洗われて跡形もなく崩れ落ちてしまいます・・・。どんなに約束しても、スヨンはサンスの指の間から砂のようにこぼれ落ちて消えてしまいます・・・。
彼らが再び出会うまでに長い歳月がかかりました。
自分たちが傷つけた人たちは傷が癒え、立ち直って新しい人生を歩き出していて、もう誰に負い目を感じる必要もなくなりました。
でもお互いに激しい感情はもうありません。サンスもスヨンを追うことに疲れて、今は新しい出会いを求めてお見合いを重ねています。
あの日、違う選択をしていたら・・・。
あの日、迷わなかったら・・・。背を向けなければ・・・。素直になれたら・・・。
あの時、こう言えばよかった・・・。もう少し待っていたら・・・。
人生は数々の「選択」の積み重ねでできています。
ときめいたり、落ち込んだり、後悔したり、でもその時はそれが精一杯の選択でした。
過ぎたことを想像して、あの時そうしていたら今はどうなっていたかなと考えながらも、浮かんできたすべての瞬間は「懐かしさ」に変わります。
あれは「愛」だったのか? お互いを本当に「理解」していたのか?
スヨンが経営するアトリエカフェで、サンスが海の絵を描いた時、その絵の中にとっくに崩れたはずの砂の城が描かれていることにスヨンは気づきます。
もろい砂でできたそれがまだサンスの中に存在している?
それとも、それはすでにサンスの思い出の中の世界?
私にもどちらなのかはっきりとはわかりませんでした。
サンスがかつて味わった絶望感を想像すると、また同じことが起きるのでは?と不安になるのは当然だと思います。
スヨンを見守ってくれた職場の先輩が言います。
「彼じゃなくても、運命の人とは必ず結ばれるのよ」
このまま静かな愛を育てていくのか、追憶の中に消えてしまった愛はもう追わないのか。
「忘却の丘」を歩く二人に、また大切な「選択」の場面が巡ってきました。
どちらを選ぶかで、彼らの人生は大きく変わっていきます。
そしてどちらを選んでも、彼らには平凡な幸せがきっと訪れるでしょう。
選んだ道が彼らにとって最良の道のはずです。
ラストシーンの字幕が「”利害”だと”理解”したのかな」となっていたけれど、ここは「利害と理解」を敢えてつなげることはしなくてよかったのにと思います。
愛における利害と理解の両方をドラマが描き、真の愛情に必要なのは利害ではなくてお互いへの理解だということは充分伝わってきました。
余談ですが、スヨンのアトリエカフェの店名「明日の幸せ」はサンスにもらった花の花言葉だと言っていましたね。
サンスは花言葉など知らなくて、花屋で一番きれいな花を買ったと言ってましたが、サンスが買ったのは「十両」と呼ばれる「ヤブコウジ」の鉢。赤い実がかわいいと言えばかわいいのですが、あれは花じゃないですね。
それにしても、あの店の経営は大丈夫でしょうか? とても流行りそうになくて。^^;
脇を固める俳優陣もみんな素敵でした。特に光っていたのが、サンスをなんとか手に入れようとがんばる財閥お嬢様のミギョンを演じたクム・セロク!笑顔がかわいい魅力的な人です。どこかでこの女優は見たな~と気になって調べたら「熱血司祭」(2019)に出てた刑事さん!こんなにきれいな女性になってたんですね。
多分、ドラマ視聴者は主人公のスヨンより、彼女が演じたミギョンの方に感情移入したんじゃないでしょうか。
サンスを引き留めるために焦って余計なことをしちゃったけど、裕福でも親に頼らず自分の力で自立したいと願う、情にあふれたいい人でした。最終回の500ウォン硬貨の演出は胸を打ちました。
スヨンに恋をする若者ジョンヒョンを演じたのが、「恋するアプリ」「詩人の恋」などで印象深かったチョン・ガラム。銀行で暴力事件を起こしちゃったのはさすがにまずかったけど、彼なりに一生懸命スヨンを愛してました。
彼も最終回の決別のシーンの演出がとてもよかったです。
ビリ入社だと言ってたけど、柔軟性があって機転が効く賢さがあったサンウの友達ギョンピルを演じたムン・テユ。
いろんなところで目にする俳優だけど、このドラマでは脇役として目立っていました。
ミギョンを愛していたのに、自分の思いを諦めるために敢えて修復不能な状態に自分を追い詰めるという極端な選択をする人。このドラマを見ていて一番哀しい存在だったのは彼でした。
名優チョン・ジェソンがこのドラマでも支店長役で大活躍。何を演じても変幻自在でピタッとはまる人です。
イ・ファリョン、パク・ヒョンス、イ・シフン、オ・ドンミン、チーム長のヤン・ジョアなどの銀行職員の面々もみんなリアルでよかったし、母親役のソ・ジョンヨンやユン・ユソンらの演技も光ってました。
韓国ドラマはアン・パンソクとこのチョ・ヨンミンが演出したドラマが好きです。この二人の監督作品は雰囲気がよく似ています。
挿入歌の入れ方も似ていて、上に貼り付けた하진の「Time’s Up」という歌が流れたときは、一瞬Rachael Yamagataの歌とイメージが重なりました。
最近の韓国ドラマは話を盛り上げることに重点が置かれていて、流れやセリフが不自然だったりします。
でもアン・パンソクとチョ・ヨンミンの作品はありのままの生活が丁寧に描かれているので、しみじみとした味わいがあって、感動も大きいです。今の自分には彼らの作品が一番合ってる気がします。
by choyon
| 2026-02-23 15:32
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