2026年 02月 11日
グッドニュース

(Netflix配信 韓国映画)
これは私にとっては最高におもしろい映画でした。
何と言っても監督がビョン・ソンヒョンですから。
もう何度も書きましたが、この監督が撮る作品のテンポの良さがとても好みなのです。
ソル・ギョングの登場シーンの胡散臭さは今まで見たことがない演技で痺れました。
「お前は誰だ?」と聞かれて、「아무것도 아니니까(何者でもないので) 아무개(アムゲ なにがし)と呼んでください」と薄ら笑いを浮かべながら答えるのですが、これが本当に何者でもない人なのです。
徐々にわかってくる事情と彼の抱える哀しみの深さに胸が締め付けられました。
この映画はフィクションではあるのですが、元になっているのは日本で1970年に起きた「よど号ハイジャック事件」です。
一体どういう事件だったのか詳しいことは知らなかったのですぐに調べました。
実際に起きた事件の報道内容を見て、この映画がどれだけ報道に忠実に描かれているかを知り驚きました。細かいところまで完全に再現されています。
「裏で何が起きようと人は見えるものを信じ、それが真実となりニュースになる」
ニュースを見て知ったことは事実の表の一面だけで、事実には常に裏側があり、その裏側の部分をコメディ要素強めのフィクションで描いたのがこの映画だと言うことができると思います。
「真実は時に月の裏側に存在する。かといって表側がウソなわけではない」by Trueman Shady
名言がいくつも登場するので、私もトルーマン・シェイディという人の言葉なのだと最後の最後までだまされてしまいました。Trueman(真実の人) Shady(日陰の=裏側の、いかがわしい)
映画は、この事件に日本側、韓国側、アメリカ側、北朝鮮側のどういう思惑があり、どういう裏の動きがあったかを笑わせながら見せていて、事件の二面性を描くだけでなく、人の心の二面性までも描いています。
人権など頭にない中央情報部の部長が自分の損得だけで態度をコロコロと変えます。自分の責任になることだけは避けたい官僚は指揮役を押し付け合います。
手柄になりそうだと踏めばいきなり前面に出てきて、まずいと思えば逃げてしまうシーンは滑稽でただ呆れてしまいました。
「アムゲ」自身も自分がそういう人間たちと同じだと気づいています。表と裏を使い分けて自己保身をする自分は「개새끼(犬野郎、クソ野郎⇒韓国で最も侮辱的なスラング)」だと。空港をフラフラと歩く犬(개)をアムゲ(아무개)はジッと見つめます。
彼は解決士なので、この事件の解決のためには、唯一 二面性のない誠実な2人の人物の想いと行動力が必要だと考えます。表も裏もない真っすぐに行動できる者だけが真の英雄になれるのだとアムゲにはわかっていました。
ただ結果がうまくいっても、きちんと評価されるかどうかは別の話。
アムゲは言うのです。
「月は月。自分は自分。誰も褒めてくれなくても自分が納得できれば人生は価値あるものになる」by 아무개
アムゲを演じたソル・ギョングの名演は登場シーンだけではありません。出迎えの任をまかされて空港に立つときの彼の表情をぜひ見ていただきたいと思います。登場したときの薄ら笑いを浮かべた卑屈な顔とは全然違う種類の卑屈さが現われた哀しい顔になります。本当にすばらしい演技力で感動しました。
中央情報部部長で最低のクソ野郎を演じるのがリュ・スンボム!
登場したときは誰だかわからなかったです。思い切りオーバーな演技なのですが、この役はとても難しく重要で、彼のテンションに周りの俳優たちが合わせることになります。好みが分かれるとは思うけれど、私はこの映画全体の空気感がとても好きだしおもしろいと思います。
その部長の命令に従わざる得ないかわいそうな若き管制官を演じるのがホンギョンです。あの「弱いヒーロー」のボムソク役は強烈だったのですが、まさかここまで出世するとは思いませんでした。私がその存在に気づけなかっただけで、元々 力がある俳優だったんですね。
その他にもパク・ヘス、キム・ソンオ、ユン・ギョンホ、パク・ヨンギュ、ヒョン・ボンシク、チョン・ベス、パク・ジファンなどなど、びっくりするくらい有名な俳優が次々と登場します。
一番笑わせてもらったのがユン・ギョンホ!金浦空港を平壌だと思わせるための作戦に協力をする映画監督の役。
自分も演者として仲間に加わりたいのですが、太っているので軍服のお腹の部分がピチピチ!北の軍人には見えないから表に出て来ちゃダメだと言われるのに「俺の設定は裕福な家で育った将軍だ。〇○○だって豚じゃないか!」って。その後の笠松将との絡みも大爆笑でした。
日本から参加した俳優陣も超豪華です。運輸政務次官の役で山田孝之。パイロットの役で椎名桔平。
乗っ取り犯の赤軍派リーダーが笠松将、その手下に山本奈衣瑠、その他にも永山瑛太、佐野史郎、西村雅彦、橋爪功などなど。
山田孝之は韓国俳優陣の演技のテンションに合わせて感情の動きを激しく表現しています。思わず神に祈ってしまうシーンはイメージの落差があって最高におかしかったです。あのかわいかった「ちゅらさん」の恵達がこんなに成長したのかと思うと感慨深い・・・。^^;
笠松将は韓国での舞台挨拶はすべて韓国語でスピーチしていました。
今回の映画は「韓国の官僚たちは世代的に日本語が話せる」という設定だったので、韓国語よりも日本語のシーンの方が多く、残念ながら彼の韓国語のセリフは登場しませんでした。
ソル・ギョングはかつて力道山を演じたことがある人ですから日本語が流暢なのはわかるのですが、他の俳優たちもみんな日本語がうまくて驚きました。
最近は韓国の俳優が日本語を使って演技することが増えていますが、日本の俳優が韓国語で演技するケースは少ないです。その点、笠松将は韓国での仕事も視野に入れて相手国の言葉を話そうと努力している様子が窺えます。応援しているので、これからもぜひがんばってほしいです。
犯人グループ紅一点の山本奈衣瑠という俳優は初めて見ましたが存在がとてもユニークで、彼女の出演作をもっと観てみたいと思いました。
そして、そして!!!!!
これはネタバレになっちゃうのでしょうか? どこにも彼女が出演すると書いてないのです。
突然の登場に私がびっくりしたのと同じ衝撃を味わっていただきたいので、ここに書くのはやめておきます。
すごいオーラがあって、さすがの演技でした。
おもしろいなと思ったのは、彼女が朝鮮戦争や1968年のイ・スンボク事件を語るシーンです。その場にいた韓国の官僚全員が同じリアクションを取ります。あのわずかなシーンからでも、彼らが徹底した歴史教育を受け、共通認識があるということが伝わってきました。
あと印象に残ったのは「あしたのジョー」の取り上げ方です。
よど号乗っ取り犯が「あしたのジョー」に影響を受けてたというのは事実のようです。
それをホンギョン演じる管制官も読んでいて、犯人たちと盛り上がるシーンがありました。
「あしたのジョーは最後まで戦い、真っ白になるほど燃え上がった。残ったのは真っ白な灰だけ。最後に勝てなかったとしてもそれだけで意味がある」と語る犯人に対して、ホンギョンは声を上げます。
「あしたのジョーは死んでいません!作者が色を塗らなかったから真っ白に死んだように見えるだけです!」
この事件の犠牲者を出したくないという管制官の叫びだったのでしょうが、作者が色を塗らなかったから白くなっただけというのは斬新な解釈ですね。
映画で描かれている表の部分はほぼ史実どおりですが、脚色された部分がいくつかあります。
実際は乗っ取り犯のグループに女性はいませんでした。
また人質になった被害者にアメリカ人神父が2人いて1人はアメリカの諜報員だったのではと言われていることです。これは韓国人が2人乗っていたという設定に変更され、アムゲがそれを利用して世論を動かします。
彼の手に掛かればウソは簡単に真実に置き換わります。見えることしか信じない人々はウソの情報に流されます。こうやって世論が作られる怖さも描かれていました。
資本主義を否定するメンバーたちは、差別と服従のない世界を求めて平壌に向かいました。
社会主義国で軍事訓練を受け、そこに軍事基地を作り、再び日本へ戻って武装蜂起するという目的だったようです。
北朝鮮に降り立った彼らがそこで何を見たのかはわかりませんが、簡単に情報が手に入らない時代なので、自分たちの思い描いていたものとは違っていて失望したであろうことは想像に難くありません。
事件で被害に遭われてトラウマに苦しまれた方もいらっしゃるでしょうが、死者が出なかったということが不幸中の幸いです。犯人たちが手にしていた拳銃や爆弾は偽物だったそうです。初めから人を殺めようという気持ちがなかったことがわかります。
日本初のハイジャックという大きな事件ではあるのですが、事件の特殊性もあって、割と気楽に映画を笑って観ることができました。
板付空港からなぜ金浦空港に着陸したのかという謎からこの事件の滑稽さに気づき映画化しようと思ったビョン・ソンヒョン監督はやはりただ者ではない気がします。
そして最後に「グッドニュース」というタイトルの意味なのですが…。
管制官はアムゲから「グッドニュース」と「バッドニュース」があると言われます。
ところが管制官にはGoodとBadの違いがわからなくて「それのどこがGoodなの?」と聞き返します。
同じことを目にし耳にしても、人の捉え方によってそれはGoodにもBadにもなります。
この映画は単なるブラックユーモアに富んだ作品というだけでなく「すべてのものには二面性があり、その一面だけを捉えても真実は掴めない」という一貫したテーマがあります。
そのあたりを注目して観ると、ビョン・ソンヒョンの映画監督としての力量が伝わってくると思います。
by choyon
| 2026-02-11 12:02
| 韓国映画(鑑賞順)
|
Comments(0)







