2026年 01月 22日
長安のライチ

この映画は以前に日本語字幕なし、中国語&英語字幕のみで上映されていました。
一体誰が観に行くの?と思ったのですが、けっこう人が入っていて、日本語字幕がなくても中国語が理解できる人ってこんなにいるんだとびっくりしました。
でも多分ほとんどは在日の中国人と、出演俳優のファンの方たちだったのかもしれないですね。
ここでようやく日本語字幕付きの上映が始まり、新宿の劇場は相変わらず大勢の観客で賑わっているようです。
大陸でどのくらいの興行収入をあげたのか調べてみたら、2025年の7月公開で6.9億人民幣=156億5千万円だそうです。この数字だけ見ればすごいのですが「満江紅」や「唐人街探偵1900」の驚異的な数字に触れたばかりなので、大陸ではそこそこヒットした感じなのかなと思います。
私は中国の俳優さんに疎くて、この映画でよく知ってる顏は、劉俊謙(テレンス・ラウ)と劉徳華(アンディ・ラウ)くらいでした。奴隷の役で出てくる劉俊謙を観たときは、ちょっとこの容姿はひどくないか?と思いましたが、やっぱりスターには見せ場がちゃんと与えられています。
蘇諒の役で出ていた白客は「唐人街探偵1900」にも出ていました。
あっ、そういえば知ってる俳優がもう一人いました!ライチの郷・嶺南の何啓光というお役人がなんと林雪(ラム・シュー)!こういう悪代官みたいな役をやらせたらピッタリの俳優です!^^
想像していた以上に、これは見る価値のある傑作でした。
ドタバタコメディのような映画かと思っていたのですが全然違います。
監督・脚本は大鵬(ダー・ポン)で、主演の李善徳役も大鵬が演じています。
ネタバレあり
【あらすじ】~「Filmarks映画情報」より
『唐の都・長安。下級官吏として働く李善徳にある日、皇帝から運命を左右する命令が下る。
「楊貴妃の誕生日を祝うため、遥か南方・嶺南の新鮮なライチを長安へ届けよ」。
ライチはとても傷みやすく、嶺南から数千キロ離れた長安へ無傷で届けることはほぼ不可能。成功すれば出世の道、しかし失敗すれば命の危険がーー。
同僚の策略により、無理難題な”ライチ使”に任命されてしまった李善徳は嶺南へ向かい、ライチ農園の長の娘、計画に投資する商人、奴隷として虐げられていた青年をはじめ、思いも寄らぬ仲間たちと手を組むことに。
刻一刻と迫る納期、腐りやすい果実、そして宮廷に渦巻く官僚達の泥沼の権力闘争。数々の逆境のなか、歴史を揺るがす前代未聞の”ライチ運送計画”が今、幕を開ける!』
作家・馬伯庸が書いた「長安的茘枝」という小説があり、それを元にまずドラマ化され、その後映画化されたのだそうです。それぞれに独自の脚色がされているのだと思いますが、残念ながら私が観たのは映画だけなので比較することはできません。
この映画に登場する”ライチ使”というのは実際にあった役職なのだそうです。
苦労して科挙試験に受かり、上林署というところに配属された李善徳はその名のとおり悪いことができない善人で、曲がったことが大嫌い、あらゆることに真面目に取り組みます。そして算術に類まれなる才能があります。
妻を娶って子をなし、長安に家を持つという長年の夢を叶えます。多額のローンを組み着実に返済していくのですが、そういう堅実な善徳のことを快く思わない人物もいるのです。お金をちょろまかして自分の懐に入れたい悪徳官僚の目には、金勘定が細かすぎて少しの不正も見逃さない善徳のことが厄介者にしか映りません。嶺南から長安までライチを生のまま運ぶなんてできるわけがないので、この無理難題をすべて李善徳に押し付けようとします。
生ではなく乾燥させた蜜づけライチのことだと誤解した善徳は、ローンを全額返せるくらいの報酬が出ると聞き、この”ライチ使”の役を受けてしまいます。
ライチというのは収穫すると1日で色が変わるくらい鮮度が命の果物だそうです。しかも長安から嶺南まで5000里も離れていて、ロバに乗って行くだけで31日もかかってしまいます。道中には山賊もいるし虎もいて危険がいっぱいです。成功しなければ命はありません。ここまで築き上げてきたものをすべて失うような気がして善徳は落ち込みます。
嶺南で偶然知り合った蘇諒という商人が、善徳の持つ通行証欲しさに資金を提供してくれることになりました。
このミッションが成功したら、長安でも商売ができるようになるかもしれないと善徳に投資しようとするのです。
こうして意気投合した二人は、どうしたら生ライチを長安まで生のまま運ぶことができるか策を練ります。
ここからが一気におもしろくなります。
まず生ライチを壺に入れる⇒水につける⇒塩で洗う⇒バナナと同じ甕に入れる
嶺南でも最高級のライチの木を育てる農園の娘の協力を得て、ありとあらゆる方法を試します。
1日でも悪くなると言われるライチの鮮度を3日持たし、4日持たし・・・工夫は続きます。
輸送方法を何通りも考えます。どの方法を取るのが最短距離になるか、馬はどうするか、乗り手はどうするか、船を使うか・・・。いろいろな組み合わせを考えて彼は試行錯誤します。
この李善徳の物の見方が、多角的で綿密で、わずかな隙もありません。
彼の脳が完全なる数学脳とでもいうのか、常に理路整然としているのです。
そして自分の進む道が決まると、そのゴールに向けて一直線に進んでいきます。
自分が今どういう立ち位置にあるのか、成功までどれだけ近づけたかを彼は冷静に見つめ続けます。
いつの間にか彼の周りには彼を慕う人々が集まってきます。
彼の誠実な人柄、誰に対しても平等な姿勢、率先して動く行動力・・・。
みんなの信頼を得た善徳は、大勢の人々の協力を仰ぎながらミッションの成功を目指すのですが・・・。
道は平坦ではありません。
世の中は善人には生きにくいのかもしれません。
権力者は社会の底辺で働く人々のことに思いを馳せることができません。
皇族の道楽のために、人々は命を賭け、さらなる負担を強いられます。
己の欲にしか目がいかない者たちに絶望した李善徳。
彼の生きる道はどこに・・・。
最後、彼がなぜ死罪を免れたのか、それだけがよくわかりませんでした。
とにかく李善徳の生き方をしみじみと味わうことができる映画でした。
「やると言ったらやり抜く。最後まで諦めない」
「契りは山より重し」
何度も感動で泣きそうになりました。
栄光や権力というのは、長い時の中では ほんの一瞬の風でしかありません。
植えたライチの苗は20年かかって実のなる木になります。
その実から取れた種が芽を出し、また20年かけて実をつけます。
失った自分の夢や想いの空しさを噛みしめるように、善徳は泣きながらライチを食べ続けます。
"永遠”はどこにもないのだという人の世の儚さ(はかなさ)までもが描かれた、すばらしい作品だったと思います。
余談ですが、映画に登場する「木棉の花」のことを私は「もめん」と読んでしまい白い花を連想しました。
ところが、これがオレンジがかった真っ赤な花で、読み方も「きわた」の花。
クライマックスシーンでこの花がはらはらと舞うさまはあまりの美しさに息を呑みました。
花言葉は「身近な人と目の前の幸せを大切に」。
真っ赤な色が精神を高揚させ、気持ちを明るくすることから「英雄の木」と呼ばれたり、多数の種がつくことから「再生」や「希望」の象徴と言われることもあるようです。
すべてが映画の内容に繋がっている気がして、妻がこの木を庭に植えたいと願った気持ちが伝わってきます。
善徳はそんな妻の気持ちにちゃんと寄り添っていました。
by choyon
| 2026-01-22 21:51
| 台湾・中国映画(鑑賞順)許光漢除く
|
Comments(0)

