2025年 12月 01日
スプリングスティーン 孤独のハイウェイ
若い時に洋楽ばかり聞いていた時期があります。一番好きだったのはブルース・スプリングスティーン。
リアルタイムではないのですが、「アズベリー・パークからの挨拶」「青春の叫び」「明日なき暴走」「闇に吠える街」「ザ・リバー」この5枚のアルバムの曲は浴びるほど聞きました。
「ネブラスカ」はあまりの暗さに敬遠。
大ヒットアルバム「Born In The U.S.A」は、「I’m On Fire」「Bobby Jean」「My Hometown」はよく聞いたけど、タイトル曲が私にとってはイマイチでした。その後少し距離ができ、また「Magic」あたりから聞き出しています。
↓「孤児のための唄」を貼り付けているので、ぜひ聴いてほしいです。
自分の生涯の1枚をあげろと言われれば、私は迷うことなく「明日なき暴走」をあげます。「ジャングルランド」「裏通り」などの心震える名曲があり、アルバムの完成度の高さは今聞いてもすごいと思います。
だから、映画がいきなり「Born To Run」で始まったときは、「ヤッター!^^」と思いました。
ところが、この映画が描いているのは、私には馴染みの薄い「ネブラスカ」の制作秘話なんです。
その時期のボスが一番精神的に苦しい時期だったようです。
「ザ・リバー」が初めて全米1位に輝き、レコード会社は「次のアルバムもきっと大成功する。それを逃すな。勢いが大事だ」とハッパをかけてきます。
貧しい労働者階級や社会の底辺にいる者たちをテーマに歌い続けてきたけれど、売れれば売れるほど自分自身は裕福になり名声は上がる一方。歌と自分自身とのギャップにボスは苦しみます。嘘が嫌いで、自分にも人にも正直でありたいと願う彼だからこそ、自分は次に何を歌えばいいのか迷いが生じたのです。
ボスは時々少年時代の自分を見ることがあります。
(もうブログで何度も書きましたが、映画やドラマでよく出てくるこのパターンの映像が私は一番泣けます。
どうしてこんなに胸がしめつけられるのか、自分でもよくわかりません。
この映画に登場するボスが少年時代を回想するシーンを見て、やはり泣けてしょうがなかったです。)
酒飲みで暴力的な父親。毎晩家中に響き渡る父親の怒鳴り声と母親の悲鳴。
父の抑圧に押しつぶされそうになる少年。
成功した後も、彼は故郷のニュージャージー州に住み続けます。そして空き家となった自分の生まれ育った家を時々車で見に行くのです。辛かった日々。父の隣に立つ少年の頃の自分が、今の自分をじっと見つめています。
恋人は言います。「あなたはいつも怖いものから逃げてる」
「自分の弱さに向き合って、さがしているものを自分で見つけて」
誰も傷つけたくないのに、自分の弱さが人を苦しめてしまう。。。
ネブラスカ州で発生した連続殺人事件のニュースを聞き、犯人のことを歌詞にします。この世に存在する卑劣な行為を歌いながら、歌詞に出てくる「He」は「I」に「him」は「me」にいつしか書き換えられます。
ボスはどんどん自分の内面に深く入り込んでいきます。
人の期待と自分の実像は違う。彼らが見ているのは彼らにとっての理想の姿。その期待には応えられない。
ボスは、自宅の寝室に4トラックの録音機を置き、アコースティックギターだけで歌う自分の曲をカセットテープに録音します。ヒットするかどうかは関係ない。自分の心から湧き上がってくる言葉を曲にして、自分のやり方で自由に歌いたい。
このカセットテープの音源をそのままレコード化するにあたって「音がきれいになりすぎる」「エコーをかけよう」と音にこだわるボスの要求に応えるのがスタッフはたいへんだったみたいです。「明日なき暴走」から彼の担当ディレクターだったジョン・ランダウが、「今は彼の心に溜まっているものをすべて解放させてやる時期なんだ」とレコード会社を説得します。
そうやって自分自身の心の闇を見つめながら作ったのが「ネブラスカ」というアルバムなんですね。
誰かのために作った歌ではない。自分自身のために作り歌った曲たち。
シングルなし、ツアーなし、会見なし、説明なし、ジャケットに自分の顔もなし。
ボスの魂が込められたこのアルバムを「暗い」と敬遠したのは若き日の私です。。。。ごめんなさい。若い時には気づけなかったことがたくさんあります。
↓「アトランティック・シティ」(YouTubeより映像をお借りしました)
この苦悩の時期を乗り越えての「Born in The U.S.A」のアルバムなのですが、このタイトル曲に関しても誕生秘話があって、ファンにとっては興味深いお宝エピソードでした。
楽屋に訪ねて来て「いい父親ではなかった」と言う年老いた父を「もう済んだこと。精一杯やっただろ。いいんだ。大丈夫」と抱きしめるシーンで再び号泣。TT
子供の頃のトラウマというのは成長しても人の心を縛ります。
でもその苦しみがあったからこそ、ボスの歌は弱者に対してとても優しいです。
そして、どんなに傷ついてもそこには「希望」があります。
「ネブラスカ」を愛聴していた人にはこの映画は刺さりまくりだったのではと思います。
「Born in The U.S.A」を歌うブルース・スプリングスティーンが好きな人は、この映画が描くボスの姿に興味がないかもしれません。
でもここにはヒーローとしての彼ではなく、哀しみを抱えて生きている一人の人間の真実の姿があります。
ファンにとっては、よくぞ映画にしてくれたという感謝の想いでいっぱいです。
ボスを演じるのはジェレミー・アレン・ホワイトという俳優です。
映画内の歌もすべて彼が自分でギターを弾き歌っているのだそうです。
彼の姿も歌も声も、私の脳内ではボス本人に変換されていたので、まったく違和感はありませんでした。
特にポケットに手を入れて歩く革ジャンの後ろ姿や、LAに引っ越してきて窓辺に立つ後ろ姿は、見事に再現されていたと思います。
最後にボスの言葉を・・・
「作詞作曲ってのは不思議なもんだ。何かを探すことなんだ。人生にほんの少しの意味を与えてくれる何かを。」
「完璧である必要はない。”正しい”と感じられればそれでいい」
こんばんは。私もこの映画早速見に行ってきました。英国のロックをメインに聞いてきたので、アメリカのバンドやアーティストで好きなのは数少ないですが、スプリングスティーンはその一人。才能や理解者に恵まれながらも、どうしようもない孤独を抱える悩み多きミュージシャンの姿に胸を打たれました。
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maxi2002さんもファンでしたか!
>才能や理解者に恵まれながらも、どうしようもない孤独を抱える悩み多きミュージシャンの姿に胸を打たれました。
ほんとにその通り!創作の苦しみも伝わってきました。
彼の歌声が胸に響くのは、やはりそれが「魂の叫び」だからなんでしょうね。
>才能や理解者に恵まれながらも、どうしようもない孤独を抱える悩み多きミュージシャンの姿に胸を打たれました。
ほんとにその通り!創作の苦しみも伝わってきました。
彼の歌声が胸に響くのは、やはりそれが「魂の叫び」だからなんでしょうね。
by choyon
| 2025-12-01 23:18
| ★外国映画・ドラマ
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Comments(2)


