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零日攻撃

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台湾で「台湾有事」をテーマにした大作ドラマがAmazon Prime Videoで放映されています。
タイトルを見るとまるで戦争を描いているようですが、そうではありません。(10話だけは非常に緊迫した状況になります)
開戦が一触即発の事態になったと想定し、その非常時に、人はどういう選択をしようとするのか、台湾社会ではどういうことが起こるのかに焦点を当てています。

全10話のドラマは1話ごとに話のジャンルや登場人物の世代もバラバラです。脚本や監督も違うので(1.5.7.8.9.10話の脚本はプロデューサーの鄭心媚が関わっている)まるで10本の短編映画を見ているようですが、登場人物が被っていたり 背後で流れているニュースなどの情報で、それらの話が同じ時間を描き、すべてが繋がっているのだとわかります。


日本では、中国で3隻目となる空母が就役したというニュースが流れ、国会で高市首相の「存立危機事態」に関する発言があったばかりです。台湾有事というのは当事国だけの問題ではなくなっています。

このドラマには日本の俳優が2人出演していますが、日本の立場というのは特に明確には描かれていませんでした。
「対米軍備調達を強行した」とか「米軍が台湾海域で待機中。我々が要請すれば即座に呼応してくれる」など米国に関する会話はありましたが、描いているのはあくまでも台湾に住む人々が平和を求めて自分たちの立場を模索する様子です。

私の知っている有名な台湾の俳優はあまり出ていません。「参加すると中国市場での活動に影響が出る」と判断されてキャスティングが難航したそうです。出演者だけでなく、多くのスタッフがエンドクレジットでは本名を伏せることを選んだとの記事には衝撃を受けました。
中国の国防部が記者会見で本作を批判したそうで、私は中国との対立を煽るような内容ではないと思ったのですが、観る側も、これはエンタメドラマであるという視点を忘れないようにした方がいいと思いました。
このドラマを観ることで戦争や平和について深く考え、自分の立場や社会の在り方を見直すきっかけになればと思います。


ネタバレあります

たとえば、1話では台湾の総統選挙(直接選挙)が描かれるのですが、ドラマで描かれているそれぞれの党の主張は、実際よりも極端な描き方になっています。

実際の台湾で2024年に行われた総統選挙では、民進党の頼候補、国民党の候候補、民衆党の柯候補の3人が争っています。3候補とも、中国との関係は現状維持を主張し「一国二制度」による統一には反対しています。その上で、民進党は中国と距離を置きアメリカと密接な関係を築こうとしているし、国民党は中国とも対話しながら米中どちらとも関係をうまく築けると主張しています。民衆党は対中政策より国内政策に重点を置いて、若者層の支持を増やしました。
得票率は民進党の頼候補40.1%、国民党の候候補33.5%、民衆党の柯候補26.5%と大きな差はありません。

ドラマでは、総統現職のソンは自由党、台北市長から総統選に出馬したワンは民主党という設定です。その他新進党などがありますが、ソンとワンの一騎打ちと言っていい状況でした。
自由党のソンは、台湾の領土と主権を死守するために中国との戦争を辞さない態度を表明。
片や、ワンの属する民主党は、中国と平和協定を結ぶことを主張しています。戦争を避けるために「一国二制度」を受け入れる考えです。
ただし、ワンは民主党員でありながらも、その考えを支持していません。彼女も戦争は絶対反対。台湾海峡問題の平和的解決を模索していますが、自由党が強行した対米軍備調達にも「軍備は交渉の前提条件だ」と賛成の立場を表明しています。流血のない、平和への道は必ずあるはずだと彼女は訴えます。

ソンが有利に進んでいた選挙戦は、ある事件が起こることで、ワンへの支持率が一気に上がります。(この事件には衝撃的な仕掛けがありました)

新総統に選ばれたワンは民主党から離れ、若い力を集結させた新党を結成。そして自由党のソンを重要ポストに任命し、台湾の民主主義と自由を守ろうと動き出します。

中国の偵察機が南シナ海を通過中に太平洋に墜落。
中国軍は捜索と救助の名目で空軍と海軍を大規模に出動させ、実質的に台湾海域を包囲。
開戦は一触即発の状況となります。

海南島事件が思い出されるし、この設定はいかにもありそうなのですが、あくまでもフィクションということで・・・。

◎2話は、戦争になるのでは?と国外に逃げ出す人々や、台湾で新しい生活を築こうとする若者たちの話になります。
若者はお金が必要なのに、詐欺に遭い、仕事もなく、平和協定支持者の事務所やデモに参加する人々を暴力で襲う団体に引き摺り込まれます。
「平和協定に署名を!戦争するな!平和がいい!」
「民主主義を守れ!自分の国は自分で救う!侵略反対!」
各地で起きるデモ。自分が守るはずだった恋人は海外へ脱出してしまいます。
自分をしっかり持っていない、見通しが立てられない若者は時代に呑まれて暴走していきます。

この暴力団体は中国側が主導していたという設定でした。彼らの目的は戦争に持ち込んで台湾の降伏を引き出すことにあり、そのための挑発であったようです。とにかく、このドラマは誰が何の目的で行動を起こしているのか読めない部分があります。こういう状況になれば、どこにスパイが紛れ込んでいてもおかしくないのかもしれません。

◎3話は、私が一番身を乗り出して観た回です。
台湾全土のネット回線が完全に切れてしまうサイバー攻撃が始まり、携帯も使えない状況になります。
全土の回線遮断の前に中国の潜水艦が海底ケーブルに侵入したという噂が流れます。
報道局はすぐに衛星に切り替えてニュースを流すのですが、満足な取材ができず情報の真偽も区別できなくなってしまい、誤ってフェイクニュースを流してしまいます。それはまるで開戦したかのようなミサイルの映像で、人々はパニックに陥ります。
TV局にはすでに中国側の人間が潜り込んでいて、情報操作が行われているという設定です。
さらに恐ろしいことに、台湾で使われているルーターの中のチップは中国の指示で製造されたもので、そのチップにセキュリティの抜け穴が作られ、それを利用してネットダウンにつながる大規模攻撃が仕掛けられていたという事実が明るみになります。
もっと恐ろしいことに、中国製の電気製品に使われているチップには中国側のデータ収集機能が搭載されていて、個人情報も大量に中国側に送られているとのこと。そして、実際には中国が製造しているものが アメリカの本社経由でアメリカ製と表示され、それが台湾の軍にも納入されているというのです。

不必要に不安を感じてはダメだと思うのですが、このようなサイバー攻撃や情報の真偽が区別できなくなるような事態、知らない間に個人情報が漏れている事案は世界中でもう実際に起きていて、この話も架空の物語ではないのかもしれません。

◎4話は「戀愛沙塵暴」で許光漢とも共演したことのある陳妤が出演しています。
この回ではネットでの偽情報が急増する様子を描き、ネット社会の怖さを訴えます。
あるインフルエンサーは、人気者の同業者からコラボの依頼を受けます。
言われた通りのネタで撮影し、編集を任せるだけで、フォロワーは増え続け 収益も上がっていきます。
ところが指示を出していた同業者が、実はAIで生成されていた虚像だったことがわかります。
その時点で、インフルエンサーはAIに洗脳され、疑似恋愛をする関係になっていました。
現実と虚構はごちゃ混ぜになり、作られた情報がネットで拡散されていきます。

これも恐ろしい話なのですが、日本でもすでに似たような状況になっているようです。
誰が何のために流している情報なのか、それも定かではありません。
受け取った情報を鵜呑みにせずに、情報に流されないように気をつけようと思うのですが、最近のAIで生成された虚偽画像は本物そっくりで、フェイクなのかどうかを見分けることすら困難です。
世論を動かしたい人物によって、真実はいくらでも書き換えられ、社会が操られてしまう危険性が常にあります。


◎5話は、親が中国人と台湾人である刑事が主人公です。
半導体フォーラムに出席予定だった米国人が殺され、その男は中国のスパイだった可能性があります。彼が持っていたUSBが紛失し、様々な組織がそのUSBを必死に探し回ります。そのUSBに入っていた情報とは?

台湾国防部は、合同演習で配備済みのHF3ミサイルを発射すると発表。軍備は本当に侵略への抑止力になるのかが論争になる中で、問題のUSBが見つかり…。

この5話に登場する日本の女優さんがほとんどのセリフを中国語で演じています。脚本をもらってから音だけで覚えたそうで、努力されたのだろうと感心しました。

また言語的におもしろいシーンもありました。
フォーラムで講演を行うブライアンという怪しい米国人がいて、彼はUSBの秘密を知っているようなのですが、主人公の刑事は英語がわからないため、彼が何を言ってるのか理解できないのです。ブライアンも中国語ができないので会話は無理だと諦めた刑事が イラつきながら「Góa thiaⁿ-bô lah!(我聽無啦!聞き取れないんだよ)」と台湾語で叫んだら、「Khàu-iau! Lí ē-hiáu kóng Tâi-gí oh (くそっ!お前 台湾語が話せるのか)」とブライアン。実は彼は中国語はできないのに台湾語がペラペラで、そこから二人の意思疎通は台湾語でやったという冗談みたいな設定でした。笑

◎6話は台湾の田舎の人々の様子がドキュメンタリー形式で描かれ、私の一番好きな回です。
戦争が起きるかどうかは神様の意思次第。占いでは中国が攻めてくると出たけれど、神様を乗せる船を作りそれを焼くことで厄を払えるはずだと信じています。
スーウェイさんの奥さんは中国人で、戦争を恐れて中国の実家に帰ってしまいます。そしてスーウェイさんと娘に早く中国へ来るようにTV電話で催促してきます。
彼のお母さんはもう高齢なので台湾を離れたくないと言います。家族が揉めている最中に、国姓爺という神様がスーウェイさんに憑依します。降臨した神様は、スーウェイさんに祭りを主催するように命じます。
この国姓爺という神様は、鄭成功という実在の人物で、国と民に役立つことをたくさん行ったということで神になった人なんだそうです。こういう元・人だった神様が台湾にはたくさんいるんですよね。
再び降臨した国姓爺が告げた「祭りで船を焼く日」というのが、スーウェイさんがお母さんを台湾において「中国に行く日」と重なります。さあ、スーウェイさん、どうする?という話です。

神様を乗せた船が村を練り歩き、人々の厄を払い、災いを取り除きます。船は浜辺で火を放たれ神様を送り出します。
地域に伝わる風習を、村人たちは力をあわせて執り行い、そこにはスーウェイさんの姿も見られます。
純朴な人々が平和を祈念する光景に、思わず目頭が熱くなりました。

◎7話はとても不思議な話で、「俗女養成記」でお馴染みの藍葦華が出演しています。(「いたキス」の琴子ちゃんパパも!)
立法院の選挙が始まり、農協組合理事のビンは民主党候補のジャンの選挙活動を支援しています。ジャンの指示で村人たちに賄賂を配って回るのですが、思ったように支持率が上がりません。ジャンに脅されたビンは村民の買収のため、投票してくれれば金持ちになれるという宗教詐欺を考えだします。神に扮したベトナムの女性に結婚を申し込んで、選挙が終わったら一緒にベトナムへ行こうとしますが、その女性の正体は悪鬼で…。

台湾の田舎の選挙活動ってこんなにやりたい放題なんでしょうか?狭いコミュニティーの中で人と人との関係が深くなるのは当然なのですが、少し嫌な面を見たなという気持ちになりました。
それと、普通の人が崇められてあっという間に神様になってしまうという展開がなんとなく6話と被っていて、複数の神を受容する台湾の人々の信仰心に驚かされました。

◎8話は戴立忍(レオン・ダイ)が出演しています。
これは重い話でした。
上海に会社を持つ主人公は妻と息子を連れて上海に渡るつもりでした。ところが、なかなか航空券が手に入りません。
妻の父は認知症で介護施設にいましたが、外国人スタッフが戦争が始まるんじゃないかと不安がって自国に帰ってしまい、施設は閉鎖せざるを得なくなります。もう何十年も会ったことがなかった父だったけれど、引き取り手は妻しかいません。
外国人家政婦たちも辞めてしまい、孤独死する老人が増えます。
中国の口座が凍結され、お金が一時的に動かせなくなります。
大勢の人が航空券を求めて混乱が生じ、詐欺が横行します。
息子は高校で「中国に逃げるのか?裏切者!」といじめられています。
そんな状況の中、妻が香港の雨傘運動支援の署名をしたために中国の警戒対象者のリストに挙がっていることが判明。
しかもその影響で上海の会社の財産が差し押さえられてしまい、主人公はますます窮地に立たされます。
(中国に頼るしかなかった息子の命に関わるエピソードは辛すぎました)

開戦の噂が人々の生活にどんな影響を与えるか、その問題点が一気に噴出したような回でした。
一番私がショックを受けたのは、雨傘運動支援に署名しただけで 行動が制限される事態になるという設定です。実際に、自由に意見が言えない社会はこうやって作られていくのだと思いました。


◎9話は荘凱勛が主人公です。人が良すぎて、潜入している中国側の人間に簡単に騙されてしまいます。

服役していた元議員の男は、世話になっている香港人に唆(そそのか)され、死刑囚の脱獄計画を実行に移します。でもそれは台湾を混乱させるための罠。香港人は中国側のスパイでした。追い詰められた彼は囚人たちと共に包囲網を突破しようとするのですが・・・。

香港から逃げて台湾へ移って来た人々の会話・・・「戦争になるかもしれないのに逃げないなんて」「香港から逃げてきて、また戻るのか?何回逃げるんだ」
彼らと交流がある主人公は、自分は台湾人ではなく元々客家人で、広東人とは同じ祖先だと話していました。彼のように台湾と中国は同じ血を持つ家族だという考えの人は多いのだと思います。
こういう人々はほとんど国民党支持者でしょうが、ドラマに出てくる、戦争を避けるために「一国二制度」を受け入れようと主張している人たちとも少し立場が異なる気がします。先住系本省人、漢族系本省人、外省人・・・それぞれアイデンティティが違うので、中国との関係に対する考え方も違ってきます。
最初に書いたように、現在の民進党、国民党、民衆党はすべて、中国との関係は現状維持を主張し「一国二制度」による統一には反対しています。それは香港の混乱を見てきたからだと思います。
それでも戦争は絶対にあってはなりません。そう願わない人はいないはずです。

◎ところが10話では、いよいよ状況が緊迫してくるという展開になります。
中国軍機が南東海域の領空に侵入。発砲寸前の危機的状況に。
艦艇も台湾海域の全体を包囲。米軍は各所にミサイルを配備。
中国軍の目的は台湾を挑発し発砲させて攻撃の口実を作ること。
軍の幹部の中にも攻撃をするなと指示する者と反撃しろと煽る者がいます。
軍の上層部にもスパイが紛れ込んでいるのか?


1話で新しい総統に選ばれたワンさんが再び登場します。
その演説の中で「台湾は、様々な移民、宗教、性の多様性を認めてきた、アジアで最も民主的で自由な地」という言葉がありました。私もその通りだと思います。
自分たちの生き方を奪い、自分たちが誇る選択の自由を踏みにじることを許さないというワン総統の決意は固いです。
その上で、流血のない、平和への道は必ずあるはずだと模索し続けるリーダーの姿に、日本人の私でも、この人になら未来を託せるんじゃないかという希望を感じました。



そして何度も繰り返しますが、今は中国に刺激を与えるのは避けた方がいい時期だと感じます。
観る側も、フィクションでありエンタメドラマであるという視点を忘れずに鑑賞し、その上で、台湾の現状に思いを馳せたいと思います。
台湾の抱える問題点もたくさん描かれていました。
私は、このドラマは「こうならないように平和を維持しましょう」という台湾の覚悟だと捉えました。
ドラマを観ながら改めて平和の尊さを感じることができ、真摯に作られたいいドラマだったと思っています。


↑2024年秋に本作の記者会見が日本で開かれたそうです。
この作品を作り上げるまでの過程がどれほど困難を極めたか知ることができる読み応えのある記事でした。
これだけの作品を制作したスタッフの努力に敬意を表したいです。


by choyon | 2025-11-09 17:40 |  台湾・中国ドラマ(鑑賞順)許光漢除く | Comments(0)

推しは周杰倫、五月天の阿信。新たな推しは許光漢!(推しはたくさんいた方がいい。^^)すべてネタバレあり。独断と偏見に満ちた自己満ブログです。


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