
今「養生する言葉」という”岩川ありさ”さんの本を読んでいます。
トラウマを抱え、またトランスジェンダーとしてこの世における居場所のなさに苦しみ、生きづらさを感じながら毎日を暮らしている著者が、自分を支えてくれる「言葉」や「物語」に出会うことで、自分を縛るものから少しずつ解放されていく様子が記されています。
自分が抱える問題に押しつぶされそうになりながらも、人はなんとか生きていかなければなりません。そんな自分自身を癒し、そばで寄り添ってくれるような言葉を、人の書いた「物語」の中から探すという感覚・・・それは私にもあり、とても共感できました。心の傷やトラウマは人それぞれ違います。私は岩川さんの壮絶なる生き方には衝撃を受けました。自分の受けた傷を表に出すということはなかなかできることではありません。ありのままをさらけ出した偽りのない言葉だからこそ、岩川さんの文章は読み手の心に刺さります。

私は映画やドラマをハマり込んで観ている自覚があって、自分の深いところが疼くような言葉を見つけたときは、忘れる前にできるだけメモしたり、ブログを記すことで確認したりして、自分の中に残るようにしています。この本のおかげで、何のためにそんなことをしているのか、初めて言葉で理解することができました。それらは自分をいたわる「養生」のために必要な行為だったのですね。映画やドラマ、本など、目に入るすべてのものから、私は自分が生きやすくなるためのヒントを探していたのです。
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この「未知のソウル」というドラマは、まさにこの”養生するための言葉”が溢れたドラマだと言えると思います。どんなドラマなのかまったく知らずに見たので、予想外の展開に驚きました。正直言って、パク・ジニョンが出ていたので自分の視聴リストに入れただけです。軽い恋愛ドラマなのかと思っていましたが、とんでもありませんでした。これは、誰もが抱えている心の傷を、それぞれがどうやって克服していくかを描いた物語です。
ネタバレあり
未知(ミジ)と未来(ミレ)は容姿がそっくりだけれど、まったく性格の違う双子。未知は高校卒業時に大きな挫折を経験し、進学や就職をせず地元で祖母の介護にあたっています。未来は勉強ができて、大学を出てからはソウルに本社のある国の金融管理公社で働いています。不満のたまっている未知とは違って、ここまでなんの挫折もなくエリートコースを歩いているように見えた未来でしたが、会社でひどいいじめに遭っていて死にたくなるほど苦しんでいました。それを知った未知は、未来の気持ちが落ち着くまで私が代わりに会社へ行くと言い出します。(会社を辞められない事情があった)相手のことを羨ましいと思っていた二人でしたが、立場が代わることで見える景色が変わり、相手の気持ちに寄添えるようになっていきます。未知が高校時代から好意を寄せていた弁護士のホスと未来(ほんとは未知)が会うことになり、入れ替わっていることがバレるんじゃないかと不安に思う未知でしたが・・・。
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私も、あることから逃げて、部屋から一歩も外に出られず引きこもった経験があるので、その時の苦しさが蘇って簡単には視聴が進みませんでした。未知と未来という双子の姉妹だけでなく、障害のある弁護士、その母親たち、職場の同僚、地上げにあっている食堂の女主人など、登場人物全員が重いものを抱えて身動きがとれなくなっています。みんな、なんとか自分をごまかしながら生活しているのですが、他者とかかわることで、その苦しみから逃げずに正面から向き合い、自分を縛っていた過去を乗り越えていきます。
特に4話と8話と11話には号泣しました。人の書いた「物語」ではあるのですが、登場人物と自分がシンクロし、いつの間にかそれが自分の物語になっていきます。ただ、人とのかかわりがあって初めて解放されるという展開が、自分には少し眩しすぎました。もちろんそれが理想だということはわかっているのですが、人とのかかわりを断つことで ようやく解放された人間がいてもいいんじゃないかと自己弁護してみたり。。ドラマでは「私は自力で出たわけじゃない。つらいのは自分だけだと思い込んで、外で見守る人の気持ちを考えもしなかった」という言葉がありましたが、自分が閉じ込められていた部屋から鍵を開けて出るという行為は、やはり自分の力でやるしかありません。誰も代わってくれないし、救ってくれる人はいないんです。信頼できる人が部屋の外で待っているという認識は私にはなかったので、そういう想いにたどりついた主人公がうらやましくもありました。
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パク・ボヨンが双子の姉妹を一人二役で演じています。演技力には定評のある女優ですが、このドラマでは顏はそっくりだけど性格がまったく違う二人を演じ分けていて、さすがに上手いなと思いました。しかも、片方が精神的な危機に陥り、それを救うためにお互いが入れ替わるため、演じ分けの難易度はさらに上がります。周りの人にバレないように相手を演じてる演技をしなくちゃいけないわけだし。^^;この「入れ替わる」という行為は普通あり得ないと思うんですが、自分が他者になることで気づくことがたくさんあります。「自分だけが辛い思いをしてる」と思い込んでいたけれど、自分の視野が狭かっただけで、相手には相手なりの痛みがあったことを知ります。そして、違う人間になって環境を変えることで、思いもよらなかった自分の可能性に気づくのです。自分から離れることでかえって自分が見えるようになるんですね。
こんな明るい性格の子が引きこもりになるかな?とも思ったのですが、克服できたようでいて「また部屋から出られなくなりそうで、1人のときは部屋のドアが閉められない」とか、「自分が愚かで情けなくて、バレないように明るく振る舞っていた」とか、人の心の闇は他人には想像もつかないほど深いのだなと感じました。
父が亡くなった事故の原因は自分にあるとずっと自分を責めて生きてきたイ・ホスを演じたのはパク・ジニョンです。除隊後、初仕事がこのドラマだったようですね。「ユミの細胞たち2」でも感じたのですが、この俳優は泣きの演技がすばらしいんです。涙が目に溜まって瞳がウルウルと揺れる様を見ると胸がキュンと反応します。
特に圧巻だったのは、彼と母親の関係の重さをパク・ジニョンとキム・ソニョンが演じるシーンです。最初は、キム・ソニョンの嘘くさい演技が少し鼻について、この役をなんでキム・ソニョンがやっているんだろうとさえ思いました。でもこれには衝撃的な事実が隠されていて(ネタバレしないようにします)嘘くさいのも演技のうちだったんだと後でわかります。私はキム・ソニョンを甘く見てました。やっぱりすごい役者です。この二人が抱き合うシーンでは号泣してしまいました。ジニョンも瞳ウルウル全開だし。TT
双子の母を演じたチャン・ヨンナムはとても激しい演技を見せてくれます。なんだかよくわからない存在感のリュ・ギョンスもおもしろかったし、嫌な上司役チョン・スンギルやイ・シフンなど、周りを固める俳優陣もみんなよかったんですが、私のイチ押しは「ソン・ギョング」というふざけた名前の未知の元カレを演じたムン・ドンヒョク!!元カレが何を考えているのかわからず、最初は彼のことを「下心があるんじゃないか」と警戒したのですが、なんてことはない二人は大親友!彼なりのやり方でちゃんと未知を支えてくれていました。こういう目立たないけど独特な演技をする俳優にはもっともっと表に出て来てほしいです。

「みんな失敗だらけだけど、人は後戻りはしないもの。つまずいても後ろには進んで行かない。気づかないだけで、みんな前進してる」
「見えるものがすべてではない」
「大丈夫、吹っ切れた時に起きればいい」
「完璧なタイミングなんてない。完璧を求めるな」
「バスだって終点まで行かず目的地で降りるだろ? 第一、結果がそんなに大事か?」
「昨日は終わって明日はまだ先だけど、今日のことは誰も分からない。未知なんだ。だから今日は生きよう。私もどうにかして生き延びるから。絶対に逃げないと約束して。一緒に1日ずつ踏ん張るとね」
養生するための言葉を拾い集めてみたけれど、乗り越えた人の言葉はあくまでもヒントであって、やっぱり自分のことは自分で始末するしかありません。でもこのドラマは、迷う人に対する作り手の優しさや想いが込められていて、本当に見てよかったと思えました。
ひとつの物語が終わり、そして私はまた「養生する言葉」を探しに出かけます。未知の世界には、私を待っているたくさんの「物語」があります。次はどんな「言葉」に出会えるでしょうか。
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