2021年 01月 13日
7年の夜

この映画もソン・セビョクつながりで観ました。
7年前に起きた交通事故。被害者の少女の父は復讐のために犯人を追い詰める。。。
あらすじだけを書けばそれだけの話なんですが、実はこの映画はそういう単純な復讐ものではありません。
人間の業の哀しさを深く描いている良作だったと思います。
タイトルも意味深です。「7年前の夜」でもなく「7年後の夜」でもなく「7年の夜」。。。
7年もの間、繰り返し訪れる夜の闇にどれほど苦しんだか・・・その辛い想いが伝わってくるようです。
ネタバレあり
交通事故を起こしたヒョンスという人物を語るには、彼の幼少時に遡る必要があります。
ベトナム戦争で片腕を失った傷痍軍人だった父。
父は行き場のない悲しみを、殴ることで妻子にぶつけていました。
そして家庭内暴力に苦しんだ末、母親は自殺。
父を憎んだ少年は村にある井戸に父親の軍靴を投げ入れます。
靴を井戸に投げると、靴の持ち主は死に至るという言い伝えがあったからです。
「死んじまえ」と叫びながら靴を投げ入れるたびに聞こえてくる「ヒョンスや 助けてくれ」という父の声。
それは幻聴だと思っていたのに、実は酒に酔った父がほんとうに井戸に落ちていたのです。
井戸の底から死んだ父親が引き上げられるとき、父の目を見た少年。
その恐ろしさをずっと封印して生きてきました。
いきなり飛び出してきた少女を車で轢いてしまったヒョンスに大きな罪はありません。
でも、うろたえるヒョンスの耳に入ってきたのは、息も絶え絶えの少女がつぶやく言葉。
「아빠, 잘못했어」お父さん、ごめんなさい。。。
この言葉こそが、ヒョンスが幼少時よりずっと心に封じ込めていた言葉でした。
蘇る記憶がヒョンスを狂わせます。
自分の罪を隠さなければ。。。井戸に靴を投げ入れたように湖に投げ込まなければ。。。
底が見えない真っ暗で深い井戸は、村ごと呑み込んだ湖の闇に繋がります。
自分の心の奥底に広がる深い闇は、隠しても隠しても、無意識のうちに自分自身を支配します。
その日から、ヒョンスは毎晩悪い夢を見るようになります。
父親が呼んでいる夢です。父は「ヒョンスや」と自分を手招きします。
夢遊病になったヒョンスはその手招きに応じるように夜の闇を歩き回ります。
苦しむヒョンスは、自分に激しい怒りをぶつけてくる妻を殴ります。
そして、それを見つめる息子の目に気づいてハッと我に返ります。
親父を憎悪してた
でも似てるんだ
この顏も やることも
酒の飲み方まで
親父にうり二つだ
血が繋がっていく業の深さは人を苦しめます。振り払っても振り払っても消せないものを、我々は生まれながらにして抱えています。血に苦しむ人は誰もがこの因縁を断ち切りたいと願うのではないでしょうか。
息子は俺とは違う
絶対に似てはダメだ
息子だけは守りたかったヒョンスは、息子を助けるために結果的に大勢の人の命を奪ってしまいます。
果てしなく膨れ上がっていく負の連鎖。
ヒョンスはほんとうに息子を愛していたんだという事実だけが残ります。
この映画のもう一人の主人公は交通事故の被害者の少女の父、オ・ヨンジェです。
妻は彼を悪魔だと言います。幼い少女を残して家を出たのは命の危険を感じたからでしょうが、その代償としてこの少女は父から暴力を受けて傷ついていました。
このヨンジェの生い立ちに関しては映画の中では語られていません。
そのせいで、交通事故を引き起こした原因はヨンジェにあり、ヒョンスこそが被害者だと思う人もいるでしょう。
その通りだと思いますが、私はここにも血というものの恐ろしさを感じます。
ヨンジェは村の名士で、大きな病院を経営し、自らも歯科医師として地位を築いています。
この村の土地はほとんどが彼のものです。
何不自由なく育ってきたであろうヨンジェの心の闇を知っている人物が一人登場します。
多分、この人の存在には誰も気づいていないと思います。
でも、私はこの人物こそが家で起きていることをすべて知りながら、身を固くして怯えながらも、この家の存在を守ってきた唯一の人だと感じました。それは、この家の老いた召使です。
多分、あの老人は、ヨンジェが幼少の頃からこの家に仕えてきたのでしょう。
ヨンジェの父親をよく知る人物だと思います。
ヨンジェが娘を殴る音を聴きながら、ヨンジェが亡くなった父親から同じように殴られて育ったことを思い出していたのではと思いました。
まったく笑わない無表情のヨンジェという人物も、血の繋がりという業に苦しめられて生きている人のような気がします。
妻や子を愛しているのに、その愛し方がわからないんですね。
自分の思い通りにならないその存在に手を上げることでしか愛情表現ができないのです。
この人も己の力ではどうすることもできない地獄の中にいる人です。
この他に、実はもう一人、血に縛られている人物が出てきます。
ソン・セビョク演じるスンファンという潜水夫です。
今は警察の仕事になっていますが、かつては水難事故のときは「ワニ」と呼ばれる遺体回収専門の潜水士がいたそうです。
「ワニ」の子は12歳から「ワニ」になるための訓練を受けます。
スンファンはそうやって父の跡を継ぎ生きてきたけれど、現在はダムの管理事務所に勤務しています。
彼が夜中に湖に沈んだ村を潜るシーンからこの映画は始まります。
村の家屋が眼下に広がり、まるで空中を飛んでいるようです。
すべてを呑み込み、そして隠してしまう深い湖の恐ろしさをよく知るスンファン。
それでも潜っていくスンファンの姿からも、人が親から受け継ぐ血の濃さを感じます。
彼は、ヨンジェの娘を救えなかった後悔から、ヒョンスの息子を助けます。
ヒョンスの息子は、父の願い通り、血を乗り越えることができるでしょうか。
この映画に終わりはありません。
ヒョンスの息子がどういう生き方をするのか誰にもわからないからです。
ずっと続く物語の一部が映画になっただけです。
ただ、ラストで少年は自らの力で湖の底から上がってきます。辛い映画なのに、最後は絶望ではなく、救いのようなものを感じることができました。
もう一つだけ付け加えると、他の人には見えない何かが見える不思議な女が登場します。
少年が、湖から上がる少女の遺体を目撃するのですが、彼女が後ろからそっと少年の目を手で隠してあげていました。
ヒョンスは井戸から上がってくる父の遺体の目を見て生涯苦しむのですが、あのシーンには、少年が自分に起きた忌まわしい出来事を乗り越えて生きていってほしいという願いがありました。
苦しむヒョンスを演じたリュ・スンリョンの迫真の演技もすばらしかったし、激情を隠し持っているヨンジェを演じたチャン・ドンゴンもさすがの演技でした。役に近づけるために額のM字部分に剃り込みまで入れたそうですよ。
7年前に起きた交通事故。被害者の少女の父は復讐のために犯人を追い詰める。。。
あらすじだけを書けばそれだけの話なんですが、実はこの映画はそういう単純な復讐ものではありません。
人間の業の哀しさを深く描いている良作だったと思います。
タイトルも意味深です。「7年前の夜」でもなく「7年後の夜」でもなく「7年の夜」。。。
7年もの間、繰り返し訪れる夜の闇にどれほど苦しんだか・・・その辛い想いが伝わってくるようです。
ネタバレあり
交通事故を起こしたヒョンスという人物を語るには、彼の幼少時に遡る必要があります。
ベトナム戦争で片腕を失った傷痍軍人だった父。
父は行き場のない悲しみを、殴ることで妻子にぶつけていました。
そして家庭内暴力に苦しんだ末、母親は自殺。
父を憎んだ少年は村にある井戸に父親の軍靴を投げ入れます。
靴を井戸に投げると、靴の持ち主は死に至るという言い伝えがあったからです。
「死んじまえ」と叫びながら靴を投げ入れるたびに聞こえてくる「ヒョンスや 助けてくれ」という父の声。
それは幻聴だと思っていたのに、実は酒に酔った父がほんとうに井戸に落ちていたのです。
井戸の底から死んだ父親が引き上げられるとき、父の目を見た少年。
その恐ろしさをずっと封印して生きてきました。
いきなり飛び出してきた少女を車で轢いてしまったヒョンスに大きな罪はありません。
でも、うろたえるヒョンスの耳に入ってきたのは、息も絶え絶えの少女がつぶやく言葉。
「아빠, 잘못했어」お父さん、ごめんなさい。。。
この言葉こそが、ヒョンスが幼少時よりずっと心に封じ込めていた言葉でした。
蘇る記憶がヒョンスを狂わせます。
自分の罪を隠さなければ。。。井戸に靴を投げ入れたように湖に投げ込まなければ。。。
底が見えない真っ暗で深い井戸は、村ごと呑み込んだ湖の闇に繋がります。
自分の心の奥底に広がる深い闇は、隠しても隠しても、無意識のうちに自分自身を支配します。
その日から、ヒョンスは毎晩悪い夢を見るようになります。
父親が呼んでいる夢です。父は「ヒョンスや」と自分を手招きします。
夢遊病になったヒョンスはその手招きに応じるように夜の闇を歩き回ります。
苦しむヒョンスは、自分に激しい怒りをぶつけてくる妻を殴ります。
そして、それを見つめる息子の目に気づいてハッと我に返ります。
親父を憎悪してた
でも似てるんだ
この顏も やることも
酒の飲み方まで
親父にうり二つだ
血が繋がっていく業の深さは人を苦しめます。振り払っても振り払っても消せないものを、我々は生まれながらにして抱えています。血に苦しむ人は誰もがこの因縁を断ち切りたいと願うのではないでしょうか。
息子は俺とは違う
絶対に似てはダメだ
息子だけは守りたかったヒョンスは、息子を助けるために結果的に大勢の人の命を奪ってしまいます。
果てしなく膨れ上がっていく負の連鎖。
ヒョンスはほんとうに息子を愛していたんだという事実だけが残ります。
この映画のもう一人の主人公は交通事故の被害者の少女の父、オ・ヨンジェです。
妻は彼を悪魔だと言います。幼い少女を残して家を出たのは命の危険を感じたからでしょうが、その代償としてこの少女は父から暴力を受けて傷ついていました。
このヨンジェの生い立ちに関しては映画の中では語られていません。
そのせいで、交通事故を引き起こした原因はヨンジェにあり、ヒョンスこそが被害者だと思う人もいるでしょう。
その通りだと思いますが、私はここにも血というものの恐ろしさを感じます。
ヨンジェは村の名士で、大きな病院を経営し、自らも歯科医師として地位を築いています。
この村の土地はほとんどが彼のものです。
何不自由なく育ってきたであろうヨンジェの心の闇を知っている人物が一人登場します。
多分、この人の存在には誰も気づいていないと思います。
でも、私はこの人物こそが家で起きていることをすべて知りながら、身を固くして怯えながらも、この家の存在を守ってきた唯一の人だと感じました。それは、この家の老いた召使です。
多分、あの老人は、ヨンジェが幼少の頃からこの家に仕えてきたのでしょう。
ヨンジェの父親をよく知る人物だと思います。
ヨンジェが娘を殴る音を聴きながら、ヨンジェが亡くなった父親から同じように殴られて育ったことを思い出していたのではと思いました。
まったく笑わない無表情のヨンジェという人物も、血の繋がりという業に苦しめられて生きている人のような気がします。
妻や子を愛しているのに、その愛し方がわからないんですね。
自分の思い通りにならないその存在に手を上げることでしか愛情表現ができないのです。
この人も己の力ではどうすることもできない地獄の中にいる人です。
この他に、実はもう一人、血に縛られている人物が出てきます。
ソン・セビョク演じるスンファンという潜水夫です。
今は警察の仕事になっていますが、かつては水難事故のときは「ワニ」と呼ばれる遺体回収専門の潜水士がいたそうです。
「ワニ」の子は12歳から「ワニ」になるための訓練を受けます。
スンファンはそうやって父の跡を継ぎ生きてきたけれど、現在はダムの管理事務所に勤務しています。
彼が夜中に湖に沈んだ村を潜るシーンからこの映画は始まります。
村の家屋が眼下に広がり、まるで空中を飛んでいるようです。
すべてを呑み込み、そして隠してしまう深い湖の恐ろしさをよく知るスンファン。
それでも潜っていくスンファンの姿からも、人が親から受け継ぐ血の濃さを感じます。
彼は、ヨンジェの娘を救えなかった後悔から、ヒョンスの息子を助けます。
ヒョンスの息子は、父の願い通り、血を乗り越えることができるでしょうか。
この映画に終わりはありません。
ヒョンスの息子がどういう生き方をするのか誰にもわからないからです。
ずっと続く物語の一部が映画になっただけです。
ただ、ラストで少年は自らの力で湖の底から上がってきます。辛い映画なのに、最後は絶望ではなく、救いのようなものを感じることができました。
もう一つだけ付け加えると、他の人には見えない何かが見える不思議な女が登場します。
少年が、湖から上がる少女の遺体を目撃するのですが、彼女が後ろからそっと少年の目を手で隠してあげていました。
ヒョンスは井戸から上がってくる父の遺体の目を見て生涯苦しむのですが、あのシーンには、少年が自分に起きた忌まわしい出来事を乗り越えて生きていってほしいという願いがありました。
苦しむヒョンスを演じたリュ・スンリョンの迫真の演技もすばらしかったし、激情を隠し持っているヨンジェを演じたチャン・ドンゴンもさすがの演技でした。役に近づけるために額のM字部分に剃り込みまで入れたそうですよ。
ソン・セビョクはやはり雰囲気が怪しくて、湖に潜っているときに落ちた少女に遭遇するんじゃないかとか、事件に関わりがあるのではとドキドキしながら見たのですが、拍子抜けするほどいい人でした。いい人を演じるには存在感がありすぎです。でも一度気になり出すと、クセになる魅力がある俳優だなと改めて思いました。
by choyon
| 2021-01-13 19:26
| 韓国映画(鑑賞順)
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